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サイドへのサーブが効かない理由

<2021/11/5公開>

前回の研究では、右利きのサーバーが、左右のコートから右利きのレシーバーのフォア側またはバック側にサーブする場合、全4コースのうち左コートからバック側へ打つのが、物理的には最も失点しやすいと結論しました。

では、レシーバーから最も遠いサイドライン際を狙ってサーブする場合はどうでしょう?

何となく、サイドへのサーブを打ちづらいと思っている方は多いかもしれません。

実際、どの試合を見ても、センターへのサーブと比べ、サイドへのサーブの割合は圧倒的に低くなっています。

たいていのレシーバーは、センターへのサーブを最も意識して待っているにも関わらず、あえてセンターへのサーブを多用するのは、サイドへサーブするよりも得点に繋がりやすいと感じるためかもしれません。

やはりサイドへは打たない方がいいのでしょうか?

本研究では、物理的リスクを明らかにした上で、サイドへのサーブを効果的に使う方法を考えます。



<研究報告>

サイドへのサーブに苦手意識を持っている方は多いと思います。

センターへ打つよりもサーブミスしやすかったり、意外と厳しくレシーブされたりすることを、経験的に知っているからです。

センターへのサーブとサイドへのサーブは、コースが大きく違うため、物理のメカニズムにも差があると考えるのが自然です。

単に練習不足や経験不足というレベルを超えた、根本的な原因があるはずです。

原因さえわかれば対策を立てられます。
難しいと思っていたサイドへのサーブも、上手く打てるようになるかもしれません。

まずは、サイドへのサーブで起きていることを理解することから始めましょう。

※以降では、サーバーもレシーバーも右利きだとして、話を進めていきます。



(1)サーブの軌道がこんなにも違う

サンタ―へのサーブとサイドへサーブの軌道には、2つの点で大きな違いがあります。

1つ目は、軌道の長さです。

センターラインからサイドラインまでの距離は3.05mです。

両エンドのショートサービスライン間の距離は4mです。

コースが違っても縦方向の距離は同じですが、横方向の距離は3mほど違います。

飛距離を計算すると、サイドへ打つ方が1mほど長くなります。

【サーブするコースによって飛距離が違う】



ざっくり言うと、4m飛ばすのか5m飛ばすのかという差になるため、サイドへはセンターよりも25%も強く打たないといけない訳です。

サーブの強さが1%ずれた場合、飛距離はセンターなら4cmずれで済んだものが、サイドなら5cmずれることになります。

サイドへ打つ方がセンターへ打つよりも、飛距離の誤差が出やすいのです。


2つ目は、軌道の高さです。

見落としがちですが、打つコースによってネットの高さが変わるため、その分、軌道の高さが変わります。

ネットの高さは、センターで1.524m、サイドで1.55mとルールで決まっています。

普段の練習では、いちいち高さを測りませんが、普通にネットを張ると、だいたい近い値になっているはずです。


【サーブするコースによってネットの高さが違う】


サイドからセンターに向かって一定の比率でネットが下がっていくとすると、サイドへのサーブは、下図のように、ネットの高さが1.537mになる付近を通ります。

【コースによって軌道の長さと高さが変わる】


同じようにネットぎりぎりを通すサーブを打っても、サイドの方がセンターよりも、1cmちょっと軌道が高くなるのです。

ネットまでの距離も50cmほど長くなります。

この高さと距離の差を意識せず、センターへ打つのと同じ感覚で打ってしまうと、ネットに掛ける確率が上がります。

ところで、サイドへのサーブは、右コートから打つ方が失点しやすい感覚はないでしょうか?

軌道の長さと高さが変わるだけなら、左コートから打っても、右コートから打っても、リスクは同じになるはずです。

次は、左右でのリスクの違いを考察してみましょう?



(2)左コートからサイドへサーブ


左コートからサイドへサーブする時の前提条件は、次の通りとします。

【左コートからサイドへサーブする時の前提条件】
サーブの打点 サービスラインから20cmネット寄り
センターラインから45cm左側
高さ105cm
サーブの着地点 相手サービスラインの16cm先(ネットと直交する方向)
サーブの打ち方 バックハンドでサーブ
※空気抵抗の影響は無視します。

この条件で、ミスする確率とプッシュされる確率が同じになる軌道を割り出します。

この理想的な軌道を計算すると、ネットの10.6cm上を通し、サイドラインの外側の端から25cm内側に落とす軌道となりました。

サーブの速度と角度に対する許容バラツキは、2.5%以内となります。

この軌道では、ネットの高さが1.533mとなるところの上をシャトルが通過します。
これは、センターへのサーブより0.8cmほど高くなります。

以上をまとめると、理想的な軌道は下図のようになります。

【左コートからのセンターへのサーブとサイドへのサーブの軌道比較】



センターへのサーブとサイドへのサーブの軌道を比較してみます。

【軌道の数値比較】
  センターへのサーブ サイドへのサーブ 差分
飛距離 4.01m 5.12m +1.11m
ネットとの距離 11cm 10.6cm -0.4cm
許容バラツキ 2.6% 2.5% -0.1point

サイドへのサーブは、着地点が遠くなるぶん距離を合わせるのが難しい上、ネット近くを通す必要もあり、許容バラツキまで小さくなります。

センターへのサーブにはない、"強すぎ"により失点するケース(サイドラインオーバー)も出てきます。


サイドへのサーブがセンターへのサーブより難しいことが、数値計算からもはっきりしました。


(3)右コートからサイドへサーブ

右利きの人が右コートからサイドへサーブする時は、サーブの打点にも注意が必要です。

センターへ最短距離でサーブを打つ時と、同じ打点ではまず打てません。

サイドへのサーブは体を左へ向けないと打てないため、打点が左に10cm、手前に10cmほどずれます。(個人差あり)

これを踏まえ、サーブの前提条件は、次の通りとします。

【右コートからサイドへサーブする時の前提条件】
サーブの打点 サービスラインから10cmネット寄り
センターラインから25cm左側
高さ105cm
サーブの着地点 相手サービスラインの16cm先(ネットと直交する方向)
サーブの打ち方 バックハンドでサーブ
※空気抵抗の影響は無視します。

この条件で、ミスする確率とプッシュされる確率が同じになる軌道を割り出します。

この理想的な軌道を計算すると、ネットの9.9cm上を通し、サイドラインの外側の端から20cm内側に落とす軌道となりました。

サーブの速度と角度に対する許容バラツキは、2.2%以内となります。

この軌道では、ネットの高さが1.537mとなるところの上をシャトルが通過します。
これは、センターへのサーブより1.2cmほど高くなります。

以上をまとめると、理想的な軌道は下図のようになります。

【右コートからのセンターへのサーブとサイドへのサーブの軌道比較】



センターへのサーブとサイドへのサーブを比較してみます。

【軌道の数値比較】
  センターへのサーブ サイドへのサーブ 差分
飛距離 3.96m 4.82m +0.86m
ネットとの距離 11cm 9.9cm -1.1cm
許容バラツキ 2.6% 2.2% -0.4point

左からのサーブと同様、強さを合わせるのが難しい上、ネットに近いところを通す必要があり、許容バラツキも小さくなります。

センターへのサーブにはない、"強すぎ"により失点するケース(サイドラインオーバー)も出てきます。

やはり、センターへのサーブより難しいことがわかります。

左右での違いをまとめると、こうなります。

【左右の軌道の数値比較】
  左からサイドへサーブ 右からサイドへサーブ
飛距離 5.12m 4.82m
ネットとの距離 10.6cm 9.9cm
許容バラツキ 2.5% 2.2%

飛距離については、左から打つ方がリスクが高くなり、ネットとの距離、許容バラツキについては、右から打つ方がリスクが高くなるという結果になりました。

右から打つ方が許容バラツキが狭くなるということは、それだけ失点しやすいということですが、これはサーブの打点がネットから遠くなることが主な原因です。


ところで、ただ軌道の調節が難しいというだけなら、練習を積んで精度が上がれば解決するはずです。

サイドへのサーブには、軌道の精度を上げるだけでは排除できない、別のリスクが隠れていそうです。

その秘密を知るために、レシーバー目線で考えてみましょう。



(4)サイドへのサーブは右コートから打つ方がリスクが高い

右利きのレシーバーは、サイドへのサーブが来た時、シャトルをどこで打ち返すことができるのでしょう?

人体の構造上、体の右側の方が、左側よりも遠くまで手が届きます。

このことが、右からのサーブと左からのサーブに対する、レシーブの打点に違いを生じさせます。

左からのサーブに対しては、センターへのサーブに触ろうと一歩踏み出した時に、サイドへサーブが来ると、すぐに触るのが難しくなります。

バック側の遠くに来た球には、手を伸ばすだけでは届かないからです。

さらに、ラケットを横回転させる打ち方を使えば、ヒットする瞬間のラケットの向きを調節するだけで、どの方向へもサーブを打つことができます。

センターでもサイドでも、ほぼ同じフォームで打てるため、レシーバーの頭にない時に打てば、逆を突くことも可能です。

【左からのサーブに対するレシーバーの打点】




一方、右からは、よみを外してサイドへのサーブを打ったとしても、レシーバーに手を伸ばすだけで対応されてしまいます。

フォア側は体から遠く離れたところでも届くため、レシーバーのよみを外しても、ほとんど逆をつくことができません。

それどころか、サーブが浮いてしまうと、フォアハンドで強いプッシュを打たれます。

【右からのサーブに対するレシーバーの打点】



さらにもう一つ、右からサーブするのを難しくする理屈があります。

右からサイドへのサーブは、基本的に、体もラケットもサイドへ向けないと打てないのです。

サイドへ打つ時だけ体やラケットの向きが変わると、レシーバーに簡単によまれてしまいます。

この点でも、右からのサーブはレシーバーの逆をつくのが難しいと言えます。


また、左右どちらからでも、サイドへのサーブをよまれてしまうと、サーバーの3球目の対応が難しくなることに注意が必要です。

サイドへ打つと、センターへ打つよりもサーバーから離れたところでレシーブされます。

サイドにストレート返球されると、サーバーは大きく動かないと取れず、クロスへ返球されると、そこから逆方向にさらに長い距離を走らされます。

サイドへのサーブに早く反応されてしまうと、3球目で有利にならない可能性が高いのです。



<結論>

本研究では、物理的視点から、センターへのサーブとサイドへのサーブ、および、左からサイドへのサーブと右からサイドへのサーブにおけるリスクの違いを明らかにしました。

サイドへのサーブは、センターへのサーブより25%前後強く打つ必要があり、ネットの高さも約1cm上がるため、これを頭に入れて打たないと、ネットに掛けたりショートする確率が上がります。

サイドへのサーブは、飛びすぎによるサイドアウトのリスクもあります。

コーナーぎりぎりを狙いすぎると、高い確率でショートかサイドアウトのどちらかになるでしょう。

サーバーが右利きの場合、左コートからは、ほぼ同じフォームでコースの打ち分けが可能なため、よまれないようにサイドへサーブを打つことも可能です。

一方で、右コートからは、体やラケットをサイドへ向けないと打てないため、よみを外すのが難しくなります。

レシーバーも右利きの場合、手の届く範囲の違いにより、バック側は反応を遅らせやすい一方、フォア側は早く反応されやすくなります。

右コートからサイドへのサーブは、レシーバーのフォア側になるため、よみを外しても厳しく返球される可能性があります。

厳しく返球されないという何か他の根拠がない限り、通用しないと思った方がよいでしょう。

左コートからサイドへのサーブは、よまれないように打てれば、レシーバーの逆をついて3球目で優位に立つことが、物理的根拠からも十分に可能と考えられます。



<サイドへのサーブを成功させる実戦的アドバイス>

サイドへのサーブは、レシーバーに良い位置で打たれないことが重要です。

センターへのサーブなら、左右へは角度を付けたレシーブが難しいため、3球目を長い距離走らされることはほとんどありませんが、サイドへのサーブは違います。

ストレートからクロスまで角度を付けた返球をしやすいため、良い位置で打たれると、3球目の対応がかなり難しくなります。

そのため、レシーバーの目先を変える意図だけで、安易にサイドへ打つのはおすすめしません。

サイドへ打つ時は、良い体勢で取られないと思える根拠が必要です。

レシーバーの立ち位置、足のつま先の向き、構え方、前へ出る速さなどから、どこまで手が届きそうか判断します。

サイドへのサーブを前で打たれないと判断出来たら、あとはよまれないように打つことを考えます。

左コートからなら、ずっとセンターへ打っておいて、点が欲しい時に、急に同じフォームからクロスへ打つと、まず良い位置で打たれることはありません。

サーブミスしないために、少し余裕を持って内側に入れるのも大事です。

レシーバーが左利きの場合は、右利きよりも手の届く範囲が広いため、それも考慮したより慎重な判断が必要です。

一方、右コートからは、センターへ打つのと同じフォームでは打てないので、基本的にサイドへは打たない方が良いでしょう。

どうしても、体やラケットの向きから、サーブをセットした時点でサイドを意識されてしまいます。

レシーバーがセンターラインいっぱいに立っていたり、センターへのサーブに山を張っているのがわかった時くらいしか、打てるタイミングはないでしょう。

また、前に突っ込んでこないレシーバーに対しては、サイドへ打つメリットはほとんどありません。

早く動かない相手には逆をつけないので、3球目の守備範囲を広げてしまうだけです。

こういう相手には、プッシュされることもないので、センターへ打っておいて3球目に集中しましょう。

サイドへのサーブは、上手く打てれば、センターへ打つよりも悪い体勢で取らせることができます。

普段の練習を通して、通用するケース、しないケースを見極められるようになりましょう。



<次回研究予告>

8回に渡り続けて来たショートサービス研究も、次回がいよいよ最終回です。

本研究で明らかにした「科学的根拠」に、私の長い競技経験から確信する「経験的根拠」をプラスした、初中級ダブルスの実戦的ショートサービス戦術を紹介します。


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