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- <ショートサービス研究室>サーブのコースで失点リスクが変わる?
<2021/10/29公開>
これまでの研究では、最短距離のショートサービスを対象にしてきました。
試合では、相手のバック側を狙いたくなる場面も出てきます。
サーブのコースによって、物理的な失点リスクはどうなるのでしょう?
本研究では、サーブのコースとリスクの関係を明らかにします。
<研究報告>
右コートからのサーブと、左コートからのサーブを、同じように打っている方は多いかもしれません。
しかし、物理的には同じとは言えないようです。
右利きの人が、左コートから、右利きのレシーバーのバック側にサーブする時は、ちょっと注意が必要かもしれません。
以降では、サーバーもレシーバーも右利きだとして、話を進めていきます。
(1)右からサーブと左からサーブは同じなのか?
最初に、右コートからのサーブと、左コートからのサーブを見比べてみましょう。
サーブの前提条件は、次の通りとします。
【前提条件】
サーブの打点 | サービスラインから20cmネット寄り、高さ105cm |
ネットとの距離 | ネットの11cm上をシャトルが通過 |
着地点 | 相手ショートサービスラインの先16cmの地点 |
サーブの打ち方 | バックハンドでサーブ |
下図のような軌道なら、右からでも左からでも差はありません。
当然、飛距離も同じです。
【右からサーブと左からサーブは同じなのか?】

しかし、実際にサーブをされる時、どこから打っているか思い出してみて下さい。
上図とは、軌道のスタート地点が違うはずです。
ほとんどの方は、体の真ん中ではサーブを打ちません。
右利きなら体の左側から、左利きなら体の右側からサーブを打ちます。
体の真ん中で打たないことが、右コートからのサーブと左コートからのサーブに違いを生じさせます。
(2)右からサーブと左からサーブは同じではない
体の左側からサーブするために、下図のように、右から打つのと左から打つとのでは、軌道が左右対称になりません。
そのため、相手コートまでの距離も変わります。
右利きの人がバックハンドでサーブする場合、右コートからは最短距離でサーブを打てますが、左コートからは打てないのです。
右コートの場合、センターライン近くに立つと、ラケットはセンターラインを越えて左側に来ます。
下図、青線のように、相手コートまではネットを挟んで、真っ直ぐの軌道で打てます。
一方、左コートの場合、ラケットはセンターラインから遠ざかる方向に来ます。
右からサーブする時と比べると、軌道のスタート地点が、30cmほど左になります。
センターラインの15cm内側を狙ってサーブすると、左コートからのサーブは、右コートからのサーブより、5cmほど距離が長くなるのです。
【右からサーブと左からサーブは同じではない】

この飛距離の差に気づかず、右コートからのサーブと同じ強さ・角度で、左からサーブしても、ネットの真上を通過する時、0.4cmほどネットに近づくだけで済み、サーブバラツキの許容範囲も、その分わずかに小さくなるだけで済みます。
この考察から言えるのは、センターライン際へのサーブについては、左から打つ方が、ネットに掛ける確率がわずかに上がるが、致命的なレベルではない、ということです。
では、レシーバーのフォア側へサーブするか、バック側へサーブするかで失点リスクは変わるのでしょうか?
(3)フォア側へのサーブは左右で同じ失点リスク
フォア側へサーブする時、サーブの軌道は下図のようになります。
青と赤の軌道はほぼ左右対称で、飛距離は約4.01mになります。
【フォア側へのサーブ】

レシーバーのフォア側を狙うサーブについては、右からでも左からでも、失点リスクは変わらないと言えます。
(4)バック側へのサーブは左右の失点リスクが全く違う
バック側へサーブする時は、下図のように、左右の対称性が大きく崩れます。
右からはネットに直角の方向へ最短距離でサーブできますが、左からは大きな角度を付けないとサーブできません。
センターラインから左へ45cmのところから、対角コートのセンターラインから80cm離れたところへサーブすると、飛距離は4.15mになります。
右からのサーブなら3.96mなので、左からサーブする方が19cmも長くなる訳です。
【バック側へのサーブ】

もし、この差を意識せずにサーブしてしまったら、どうなるでしょう?
(5)左からバック側へのサーブは失点しやすい
左コートからレシーバーのバック側へ、右コートからサーブするのと同じ強さ、同じ角度でサーブしてしまったとします。
水平方向の飛距離は、右コートからの飛距離と同じく3.96mとなるため、下図の通り、2cmショートします。
右コートからなら十分に余裕を持って入るサーブが、左コートからならショートするのです。
【左からバック側へのサーブはショートしやすい】

この考察でわかるのは、左コートからレシーバーのバック側へサーブする時は、少し強めに打たないといけないということです。
さらに、左コートから打つレシーバーのバック側へのサーブには、レシーブされる位置についてもリスクがあります。
レシーバーが、どこでシャトルに触れるか計算してみましょう。
仮に、フォア側へ来たサーブを、ネットから1mのところで打てる能力が、レシーバーにあるとします。
バック側へ来たシャトルに対しても、同じ距離だけ動いてレシーブすると、ネットからの距離はどうなるでしょう?
計算すると、下図のように約0.9mとなり、10cmネットに近いところで触られます。
A点で触れるなら、同じ距離のB点でも触れる訳です。
B点で打たれた時、打点(高さ)はA点より約7cm高くなります。

この考察から言えるのは、左コートからレシーバーのバック側へサーブする時は、サーブのばらつき許容範囲が狭くなるということです。
<結論>
右コートからのサーブの軌道と、左コートからのサーブの軌道に、物理的な差はあるのか、失点リスクが変わるのかを考察しました。
右利きのサーバーがバックハンドでサーブする場合、左コートからサーブする方が、サーブの飛距離が長くなることがわかりました。(サーバーが左利きかフォアハンドサーブなら左右逆になる。)
右コートからは、ネットに直交する向きに最短距離でサーブを打てますが、左コートからは同じサーブは物理的に打てません。
また、レシーバーも右利きなら、フォア側へのサーブはどちらのコートからサーブしても大差ありませんが、バック側へのサーブは左コートから打つ方が圧倒的にリスクが高いこともわかりました。
左コートから打つバック側へのサーブは、飛距離が長くなる上、ネットに近いところから高い打点で打たれやすくなります。
右コートからバック側へ打つのと同じ感覚で打ってしまうと、ショートして失点する確率が跳ね上がることも明らかになりました。
<サーブのコースを打ち分ける実戦的アドバイス>
ショートサーブを打つコースによって、5%強く打とうとか、角度を1度上げようというのは、とても現実的ではありません。
どこからどのコースへも浮かずショートせずのサーブを打つには、ほぼ無意識に、強さや角度を変えられるよう、感覚として身につけておく必要があります。
そのためにお勧めしたいのは、サーブをセットする際、必ず一度、ネットの白帯と、シャトルを落としたい場所を見ることです。
そして、白帯のどれくらい上を通して、どこに落とすか、サーブの軌道をリアルにイメージします。
あとは、その軌道にシャトルを乗せるイメージを強く持ってサーブすることです。
普段の練習で、何度も繰り返すうちに、だんだん感覚として身に付いてきます。
どれくらいの強さと角度で打てばよいか、白帯や落下地点を見ただけでわかるようになっていき、安定したサーブを打てるようになります。
さらに感覚を研ぎ澄ますには、できるだけ余計な動作や意識を排除するのがいいです。
サーブに関わる動作のほとんどをルーティーン化してしまい、コースや駆け引きに意識を集中できるようにしましょう。
<次回研究予告>
最短コースにばかりショートサーブを打つと、よまれそうな気がして、たまにサイドへも打ちたくなります。
ただ、意表を突いたつもりでも、ネットに掛けるかアウトして失点してしまったり、入ったとしても意外に厳しく返されたりします。
こうなるのは、技術だけの問題ではなく、物理的にも失点しやすい理屈がありそうです。
次回は、サイドへのサーブが難しくなる原因と対処法を考えます。
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