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- <ショートサービス研究室>サーブがばらつく原因:「サーブ後」編
<2021/10/22公開>
これまで、サーブ前、サーブ中に焦点を当てて、サーブがばらつく原因を明らかにしてきました。
サーブ前のセット、サーブ中のスイングに全くブレがなければ、サーブの軌道はいつも同じになりそうな気がしますが、実はまだ、軌道の差を作る原因となるものがあります。
それは、ラケットに当たる前後のシャトルの動きです。
手から放した後のシャトルの動きに差があると、ラケットに当たる位置や、ラケットが捉えるコルクの場所が変わるのです。
ここでは、「サーブ中」のスイングのずれと切り分けるため、シャトルを放した後に出る差を「サーブ後」に発生するずれとします。
コルクを打つなら、どこを打っても大差ないようにも思えますが、いったい軌道にどんな影響が出るのでしょう?
<研究報告>
サーブを打つ時は、必ずシャトルのコルク部分を打つことになります。
サービスルールに「サーバーは、ラケットで最初にシャトルの台を打つものとする。」というのがあり、コルク部分を打たないとサービスフォルトになるからです。
コルクを打った後、シャトルはどのような動きをするのでしょう?
コルクを打つと、シャトルはくるりと向きを変え、コルクを先頭にして飛んで行こうとします。
シャトルの周りに発生する空気の流れにより、必ずそうなります。
このシャトルが向きを変える動作が、サーブの軌道に影響を与えます。
本研究では、シャトルの捉え方の違いで、飛び方がどう変わるかを考察し、最もサービス軌道のばらつきを抑えられる打ち方を明らかにします。
(1)サーブを打つ時のコルクの向きは?
ショートサーブを打つ時、シャトルのコルクをどういう角度で打っているのでしょう?
コルクのどこを打つかは、セットした時のシャトルの向きで概ね決まります。
その向きは、大きく分けて3パターンあります。
パターン1.コルクを少し手前に向ける
親指と人差し指で羽根の一か所を掴み、その2本の指の真下にコルクが来るようにします。
手首や指に力を入れないようにすれば、重心の関係で、コルクは真下ではなく、自然と少し手前を向きます。
【コルクを少し手前に向ける持ち方】
パターン2.コルクを真下に向ける
少し手首を曲げ、5本の指すべてを使って、シャトルを真上から掴むように持ち、コルクが真下を向くようにします。
手首や指の角度を調整し、コルクが真下を向くようにします。
【コルクを真下に向ける持ち方】
パターン3.コルクをラケット面の方に向ける
親指と人差し指で羽根の一か所を掴み、コルクがラケット面の方を向くようにします。
腕を伸ばし手首を曲げて、ちょうど良い向きに調整します。
羽根をしっかり掴まないと、この向きにはセットできません。
【コルクをラケット面の方に向ける持ち方】
3つのパターンの打ち方を取り上げましたが、コルクの向きによって、力の入れ具合や角度調整の有無に差が出ることが、おわかりいただけたと思います。
しかし、コルクの向きが違うだけで、本当に飛び方は変わるのでしょうか?
(2)コルクの向きで飛び方が変わる?
シャトルは必ず、コルク部分を先頭にして飛んで行きます。
サーブでは、コルク部分を打ちますので、シャトルは90〜180度の間で、向きを変えることになります。
動くものには「慣性」が働くため、急に止まることができません。
シャトルが向きを変えるために回転した時、コルクの回転運動に対しても、この慣性が働きます。
コルクが進行方向を向いても、すぐに回転が止まる訳ではなく、少し回りすぎた後、空気の流れや重力の力を借りて、進行方向に向きを戻します。
この効果を考慮して、先ほどの3つのパターンでシャトルの飛び方(イメージ)を比較してみましょう。
パターン1.コルクを少し手前に向ける
37度(※)上向きにサーブするとし、最初のコルクの向きとの角度差を計算すると、148度前後になります。
※研究レポート3で算出した、空気抵抗を考慮した理想的なサービス角度。
コルクは少し慣性の影響を受けますが、比較的短い時間で向きが安定します。
【シャトルの飛び方】
パターン2.コルクを真下に向ける
37度上向きにサーブするとし、最初のコルクの向きとの角度差を計算すると、127度になります。
パターン1よりも21度ほど少ない回転量で済み、コルクの向きはすぐに安定します。
【シャトルの飛び方】
パターン3.コルクをラケット面の方に向ける
サーブの角度によらず、最初のコルクの向きとの角度差は、ちょうど180度になります。
パターン1よりも32度、パターン2よりも53度多く回転します。
回転量も多く、慣性の影響も大きいため、コルクの向きが安定するのに時間がかかります。
【シャトルの飛び方】
3つのパターンで、コルクの向きが安定するまでの時間が違うことがわかりましたが、それがサービス軌道にどう影響するのでしょう?
(3)シャトルが回転する間に軌道が変わる?
シャトルが不安定な飛び方をしている間、コルクの軌跡がどうなっているか見てみましょう。
パターン1.コルクを少し手前に向ける
理想軌道とのずれは比較的小さく済んでいます。
理想軌道よりも少し飛距離が増えています。
【コルクの軌跡】
パターン2.コルクを真下に向ける
理想軌道からずれるのは最初のわずかな間だけです。
理想軌道よりもわずかに飛距離が増えるだけで済んでいます。
【コルクの軌跡】
パターン3.コルクをラケット面の方に向ける
理想軌道からずれる時間が長くなっています。
理想軌道との飛距離の差も大きくなってます。
【コルクの軌跡】
3つのパターンで、理想軌道からずれる時間と、飛行距離に、差が出ることがおわかりいただけると思います。
さらに、理想軌道からずれている間は、進行方向から見た羽根の部分の面積が大きくなるため、空気抵抗の影響を受けやすい状態になっています。
この2つの考察より、シャトルが不安定な動きをしている時間が長いほど、安定した後、理想軌道に乗せるのが難しくなると言えます。
計算してみると、サーブの着地点は、飛行距離が1%伸びると約4cm手前になり、空気抵抗が1%増えても約4cm手前になります。
パターン3は、3つの中で、最もサーブをショートするリスクの高いサーブと言えそうです。
シャトルが不安定な時間を短くした方がよいなら、パターン2が理想的と思われますが、そんなに簡単な話ではありません。
シャトルをヒットする前には必ずシャトルを放します。
シャトルを放してからヒットするまでの短い時間にも、サーブのずれを誘発する要因があります。
(4)シャトルの放し方にも注意が必要
シャトルを放してからヒットするまでの間にばらつくものは何でしょう?
一つはコルクの向きです。
シャトルが落下する時、空気の流れの影響を受け、コルクが真下を向いた状態で安定します。
そのため、シャトルは手を離れた瞬間から、コルクが真下を向くよう回転し始めます。
手を放す前のコルクの向きと、ヒットする瞬間のコルクの向きは、わずかに違うのです。
3つのパターンで、手を放したあとのシャトルの動きを考察してみましょう。
ここでも、パターン2が理想的なように思えますが、手を放してすぐにシャトルを打つなら、どのパターンでもコルクの狙った場所を打つことはできます。
ラケット面のどこで打つか、ヒットポイントを安定させる意味でも、シャトルを放したらすぐに打つのは合理的です。
どのパターンでも、シャトルを打つ直前に、素早く手を放すのは簡単です。
しかし、いつでも同じようにシャトルを放せるかという点ではどうでしょう?
次は、シャトルを放す動作の再現性に目を向けてみましょう。
(5)シャトルの持ち方で放し方の難易度が大きく変わる
シャトルの重心はコルクと羽根の境目付近にあります。
羽根の一か所に糸を付け、天井から吊るしたら、シャトルの向きはどうなるでしょう?
【羽根を吊るすとどうなるか?】
糸の張力とシャトルの重力が打ち消し合うよう、糸の延長線上にシャトルの重心が来ます。
シャトルは真っ直ぐ下には向かず、支点のほぼ真下にコルクが来るよう、少し斜めを向きます。
これを頭に入れて、3つのパターンを比較してみましょう。
【シャトルの重心と支点の関係】
パターン1は、先ほどの図と瓜二つです。
2本の指で挟んだ一点が支点となり、そのほぼ真下にコルクが来ます。
物理的に安定した状態なので、手首や指に余計な力を入れなければ、勝手にこの向きになってくれます。
ほとんど力が要らないので、シャトルを放す時、親指と人差し指どちらが先に外れても、シャトルの状態は乱れません。
パターン2は、5つの支点を使って、コルクが真下を向くよう、意識的にバランスを取る必要があります。
シャトルを放す時は、5本の指を同時に放さないと、一瞬このバランスが崩れ、コルクの位置や向きが乱れます。
指を放した時に、コルクが少し相手コート側を向いてしまうと、ラケットはコルクだけでなく羽根にも当たります。
【コルクの向きが相手側へずれるとどうなる?】
羽根を打つのは致命的です。
シャトルの飛び出す方向が変わり、不安定な動きも増えるため、軌道が大きくずれる原因になります。
パターン3は、支点が重心の真上に来ないので、指の力でシャトルの向きを維持しなければなりません。
その上、ただシャトルを放すだけでは、指をラケットで打ってしまうため、指を引き上げる動作が必要です。
2本の指の力の調整と大きな動作を同時にするため、バラツキが大きくなりやすいと言えます。
ただ、多少コルクの向きが変わっても、羽根を打つリスクはないため、パターン2ほど大きなデメリットではないかもしれません。
(6)結局シャトルのブレを抑えるにはどうすればいいのか?
ここまでの考察から、シャトルの動きのブレを抑えるには、4つのポイントがあることがわかります。
ポイント1:シャトルが飛び出した直後のコルクの回転角が小さいほどよい。
ポイント2:シャトルを持つ時に、手首や指の力とバランスを意識しないで済むほどよい。
ポイント3:シャトルを放す時に、シャトルのブレが小さいほどよい。
ポイント4:シャトルを放してからヒットするまでの時間が短いほどよい。
ポイントごとに、3つのパターンの優劣を比較すると、こうなります。
パターン1 | パターン2 | パターン3 | |
ポイント1(回転角) | 〇 | ◎ | × |
ポイント2(力・バランス) | ◎ | △ | △ |
ポイント3(放す時のブレ) | ◎ | × | △ |
ポイント4(ヒットまでの時間) | 優劣なし | 優劣なし | 優劣なし |
シャトルの動きのブレを抑えやすく、リスクも小さいのは、パターン1のコルクが少し手前を向く持ち方ということになります。
ポイント4については、シャトルから指を放すと同時に打てるのが理想です。
ラケットが手に当たらないよう、手を引く動作を入れると、手を引き終わるまで打てなくなります。
同時に、シャトルの動きにブレを与える原因にもなります。
つまり、指を放すと同時に打てるのは、ラケットが手に当たることのない位置ということになり、必然的に上側のフレーム寄りしかありません。
パターン1を例に図解すると、こうなります。
【どこで打つのがよい?】
ラケットの先端寄りで打つか、シャフト寄りで打つか、打ちやすいポイントには個人差がありますが、青い範囲内ならどこで打ってもシャトルの動きは安定するでしょう。
<結論>
サービス軌道をばらつかせる最後の要因として、シャトルの持ち方と放し方、打つポイントについて考察しました。
コルクを少し手前に向ける打ち方、真下に向ける打ち方、ラケット面の方に向ける打ち方の3パターンでは、コルクを少し手前に向ける打ち方が、最もサーブのバラツキを抑えられると結論します。
シャトルの動きを最小限に抑える手順は、次の通りです。
・手首の力を抜いて、親指と人差し指で羽根の端をそっと掴む。
この時、自動的に、シャトルのコルク部分が、掴んだ点の真下に来る。
・ラケット上側、フレーム寄りにコルク部分が来るよう、シャトルをセットする。
・ラケットを引き、最初にセットした位置に戻すように動かす。
・ヒット直前、手は動かさず、指だけを開いてシャトルを放す。
シャトルの重心が2本の指の真下にあるため、親指、人差し指どちらが先に放れても、シャトルは真下に落下する。
・シャトルを放したらすぐにヒットする。
コルクをラケット面の方に向ける打ち方は、上級者の方に多く見られます。
上手く打てれば、コルクの揺れを利用してプッシュされにくくできたりしますが、初中級の方には失点に繋がるデメリットの方がはるかに大きいでしょう。
<シャトルの動きを抑えるための実戦的アドバイス>
シャトルの動きは、人によらず必ず働く運動法則による力と、人に依存する余計な力(本来必要ないが無意識に加えてしまう力)の二つで決まります。
運動法則による力の影響を低く抑え、人が加える余計な力を原理的に起きづらくすれば、嫌でもシャトルは安定します。
この2つを両立する方法は上述した通りですが、後者の力については、ご自身に合うよう工夫することで、極限まで減らすことができます。
私のしている工夫をご紹介すると、
・シャトルが指に張り付かないよう、指の汗の具合をチェックする。汗をかいていたらウェアで指を拭いてからサーブする。(特に夏場)
・痛みの少ない羽根を選び、隣り合う2枚の羽根を跨ぐように掴む。指の感覚に違和感があれば、掴む場所を変える。(1枚より2枚の方がシャトルを固定しやすい。)
・シャトルを持つ側の腕は、肩と指以外、一切力を入れない。
・肩は腕を持ち上げるために、指はシャトルを掴むために最低限必要な力だけ入れる。
・これらの動作をルーティン化(同じ動作を同じ時間で行う)し、考えなくても勝手に体が動くようにしている。
余計なことを考えると、余計な力が入ってしまうものです。
シャトルの持ち方、放し方に限らず、一連のサーブ動作は、何度も練習して、無意識にできるようになりましょう。
<次回研究予告>
これまでの研究では、最短距離のショートサービスを対象にしていました。
試合では、相手のバック側を狙いたくなる場面も出てきます。
サーブのコースを変えると、物理的な失点リスクも変わるのでしょうか?
右コートか左コートかでも変わるのでしょうか?
どうも、左コートからバック側にサーブする時は、特に注意が必要なようです。
次回は、サーブのコースとリスクの関係を考えます。
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