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サーブがばらつく原因:「サーブ中」編

<2021/10/15公開>

前回の研究で、「サーブ前」のセットのしかたが原因でサーブの打点がずれること、そのずれの方向によって、サービス軌道への影響の大きさが異なることを明らかにしました。

しかし、打点までは安定できたとしても、サーブを打つ時のスイングにずれが出てしまうと、結局サービス軌道もずれてしまいます。

そこで今回は、「サーブ中」に焦点を当てて、サーブがばらつく原因を考えます。



<研究報告>

サーブの打点を決めるのはサーブ前の動作でしたが、サーブの打ち出し速度や角度を決めるのはサーブ中の動作です。

速度を決めるのはサーブの強さ、角度を決めるのはラケット面の向きです。

サーブの強さやラケット面の向きを決めるものは何でしょう?

真っ先に思い浮かべるのは、ラケットを振るスイング動作です。

スイングの速度と角度は、シャトルが打ち出される速度と角度に直結します。


ラケットを振る動作以外には、何があるでしょう?

見落としがちですが、ラケット面のどこでシャトルを捉えるかというのがあります。

シャトルが、ラケット面の中央付近(スイートスポット)に当たるのか、フレーム近くに当たるのか、その位置(ヒットポイント)によってシャトルの速度が変わります。


それでは、スイングのずれとヒットポイントのずれが原因で発生する、サービス軌道のずれについて考えてみましょう。



(1)サーブを打つ時ラケット面はどんな軌道を描くのか?

どんな打ち方をすれば、サーブのバラツキを抑えられるのでしょう?

それを明らかするために、最初に、サーブを打つ時のラケット面の動きを考えてみましょう。

基本的なラケット面の動きとしては、直進、横回転、縦回転の3通りが考えられます。

多くの場合、この3つをブレンドした動きになりますが、人によってその比率はまちまちです。

特に、縦回転はそれだけで打つのが難しいため、直進や横回転とセットで使われることが多いでしょう。

ここからは、「直進」、「横回転」、「縦回転+直進」、「縦回転+横回転」の4つに分けて、スイング動作を考察します。


ラケット面の動き1:直進
シャトルに向かって平行に動きます。
ラケット面は常に打ちたい方向を向きます。

【ラケット面の動き:直進】




ラケット面の動き2:横回転
グリップを支点にして水平方向に円を描くように動きます。
打ちたい方向にラケット面が向くのはシャトルを捉える一瞬だけです。

【ラケット面の動き:横回転】




ラケット面の動き3:縦回転+直進
シャフトを軸にして回りながら、シャトルに向かって平行に動きます。
打ちたい方向にラケット面が向くのはシャトルを捉える一瞬だけです。

【ラケット面の動き:縦回転+直進】




ラケット面の動き4:縦回転+横回転
シャフトを軸にして回りながら、同時に、グリップを支点にして水平方向に円を描くように動きます。
打ちたい方向にラケット面が向くのはシャトルを捉える一瞬だけです。
この一瞬以外は、左右方向、上下方向、どちらも打ちたい方向からずれています。

【ラケット面の動き:縦回転+横回転】




なお、逆方向の縦回転(下回転)で打つこともできなくはないですが、特にメリットもなく、あまりそういう打ち方をする方は見かけません。

ここまでラケット面の動きを見てきましたが、こんな風にラケットを動かそうとすると、どういう打ち方になるのでしょう?



(2)ラケット面の動きと打ち方の関係は?

ラケット面の動きが同じであれば、だいたい似たような打ち方になるはずです。

まずは、それぞれの動きを作る打ち方を見ていきましょう。



1.ラケット面を直進させる打ち方
シャトルを打ち出したい方向へ前腕(肘から先の部分)を動かします。
ラケット面の向きをキープするために、手首から先は動かしません。

【打ち方:直進】



シャトルを打ち出したい方向と、ラケットの動く方向が同じため、最も狙った軌道に打ち出しやすい打ち方です。

一方で、押す力だけでラケットを加速させないといけないので、腕の動きは大きくなりがちです。

メリット:左右方向へも上下方向へもずれにくい。
デメリット:腕の動きが大きくなりやすい。



2.ラケット面を横回転させる打ち方
手首から先を水平方向に円を描くように動かします。
前腕を動かしすぎるとヒットポイントがずれやすくなります。

【打ち方:横回転】



ラケットは、グリップを支点にした円運動をするので、手を動かす距離を短くできます。
小さい動きで打てるため、ロングサーブとショートサーブの打ち分けが容易です。

一方で、シャトルを捉える一瞬しかラケット面が打ちたい方向を向かないので、サーブの軌道が左右方向へずれやすくなります。

メリット:小さい手の動きで打つことができる。上下方向へずれにくい。
デメリット:左右方向へずれやすい。



3.ラケット面を縦回転&直進させる打ち方

前腕を手前から奥へ軸回転(回外)させ、グリップを回して打ちます。
同時に、シャトルを打ち出したい方向へ前腕を動かします。

【打ち方:縦回転+直進】



ラケットはシャフトを軸にした回転運動をしますが、回転半径が小さいため、ラケット面を加速させるには大きな力が必要になります。
その力を補うために直進運動を併用します。

ラケットを回しながら握り込むことで、コンパクトにロングサーブを打つことができます。

一方で、シャトルを捉える一瞬しかラケット面が打ちたい方向を向かないので、サーブの軌道が上下方向へずれやすくなります。

メリット:左右方向へずれにくい。コンパクトにロングサーブを打ちやすい。
デメリット:上下方向へずれやすい。



4.ラケット面を縦回転&横回転させる打ち方
前腕を手前から奥へ軸回転(回外)させ、グリップを回して打ちます。
同時に、手首から先を水平方向にも動かします。

【打ち方:縦回転+横回転】



ラケットはシャフトを軸にした回転運動をしますが、回転半径が小さいため、ラケット面を加速させるには大きな力が必要になります。
その力を補うために横回転の運動を併用します。

ショートサーブでもロングサーブでも、小さい動きで広いコースへ打つことができます。

一方で、縦回転も横回転も使うので、サーブの軌道が左右・上下どちらにもずれやすくなります。


メリット:前後左右、広いコースへの打ち分けが容易。
デメリット:左右方向へも上下方向へもずれやすい。



(3)打ち方の違いによるサーブのバラツキへの影響

どの打ち方をしても、目指すサーブの軌道は同じですが、その再現のしやすさには差が出ます。

最初に角度について考察してみましょう。

直進させる打ち方と横回転させる打ち方では、左右方向の角度に対する感度が全く異なります。

直進運動では、打ちたい方向とラケット面の向きは常に同じなので、狙った方向にシャトルを打ち出すのが容易です。

一方、横回転運動では、打ちたい方向とラケット面の向きが一致するのは、打つ瞬間だけなので、左右方向へのずれが出やすくなります。

【打つ方向とラケット面の向き】



サーブを打つ前に、10〜20cmラケットヘッドを引くのが一般的と考えますので、ここではその距離を15cmとします。

ラケットはグリップを中心に回転しますので、そこからシャトルを捉えるヒットポイントまでの距離は50cm程度になります。

ラケットを引いた時と打つ瞬間との間にできる角度を計算すると、約17度となります。

【横回転時にできるラケットの角度】



ラケットをきっちり17度回すと、狙った方向へシャトルを打ち出せますが、この角度は打つたびにばらつくはずです。

角度が最大10%ばらつくとすると、シャトルの打ち出し角度は最大で1.7度、横方向にずれます。

この時シャトルの着地点がどれだけ横にずれるか計算すると、約11cmとなります。

いつもセンターラインから11cmだけ内側を狙ってサーブを打つようにしておけば、10%ばらついてもサイドアウトは防げます。

レシーバーに取らせる位置も、狙ったところからずれますが、初中級の方が相手なら、10cm程度のずれが致命傷になることは少ないでしょう。

この考察から言えるのは、横回転のスイングは、左右方向のサーブずれを起こしやすいものの、即失点する可能性は低いということです。


一方、縦回転の場合は、角度のずれは上下方向となるため、サーブが浮いたりネットに掛けたりするリスクに直結します。

シャトルを打つ瞬間のラケット面の向きが10%ずれると、打ち出し角度もそのまま10%ずれます。

これまでの研究結果では、サーブの強さと角度に許容されるバラツキは2.6%以内です。

縦回転を使う打ち方は、打ち出し角度に対するリスクが最も大きいと言えます。


次に、サーブの強さについてです。

サーブの強さのバラツキを定量的に見積もるのは困難なので、定性的に考察してみましょう。

複雑な打ち方をするほど、強さのバラツキが大きくなると考えるのが自然です。

縦回転と直進を併用する打ち方は、直進だけで打つ打ち方よりも、強さのバラツキが大きくなるはずです。

縦回転と横回転を併用する打ち方は、横回転だけで打つ打ち方よりも、強さのバラツキが大きくなるはずです。

縦回転を使う打ち方は、強さに対するリスクも大きいと言えます。

直進させる打ち方と横回転させる打ち方では、どちらが有利なのか判断できませんが、ラケットヘッドの移動距離はほとんど同じなので、強さに対する感度は大差ないものと思われます。



(4)ヒットポイントのずれはサーブの強さに影響する

次に、ラケット面のどこでシャトルを捉えるか、ヒットポイントの違いによるサーブのバラツキへの影響を、考察してみましょう。

ラケットには、スイートスポットと呼ばれる反発力の高いエリアがあります。

同じ力で打った場合、シャトルはスイートスポットに当たると速く飛び出し、そこを外すと遅く飛び出します。

シャトルに加わる力が変わるだけなので、飛び出す方向には影響しません。

【スイートスポットは反発力が高い】



仮に、ショートサーブをいつもスイートスポットで打っているとすると、スイートスポットを外して打ってしまった時に、ネットに掛けたりショートしたりする確率が高くなる訳です。

ところで、スイートスポットで打つのと、あえてスイートスポットを外して打つのとでは、どちらがサーブのばらつきを抑えやすいのでしょうか?

この答えを出すには、シャトルの打ち出し速度がどう決まるのかを、理解しなければなりません。

ショートサーブを打つ時、後ろへ引いたラケットを前へ移動させてラケットを加速させることで、速度を獲得します。

ラケットがシャトルを捉えると、シャトルには、ラケットの速度だけでなく、一瞬へこんだガットが復元する際の反発力が作り出す速度も加わります。


シャトルの初速度=ラケットの速度(A)+反発力により発生する速度(B)

スイートスポットで打つと、上式Bの値が大きくなり、シャトルの初速度は速くなります。

スイートスポットを外して打つと、上式Bの値が小さくなり、シャトルの初速度は遅くなります。

全く同じスイングをしても、ヒットポイントの違いだけでシャトルの速度が変わるのです。

仮に、スイートスポットで打つとシャトルの初速度がラケット速度の2.0倍、スイートスポットを外して打つと1.9倍だとします。

シャトルの打ち出し速度を時速20kmにしようとすると、ラケットの速度はこうなります。

スイートスポットで打つ場合:時速10km
スイートスポットを外して打つ場合:時速10.53km

ラケットの速度は、スイングする時の力の大きさで決まりますので、スイートスポットで打つ方が、弱い力で打たないといけないということです。

もともとの力が小さいと、少し力が入ったり、少し緩んでしまったりしても、大きな比率で効いてきます。

この例では、スイートスポットで打った方が、同じ力の増減に対して、2.0/1.9=1.05倍、影響を受けやすくなります。

この考察から言えるのは、スイートスポットで打つ方が、力に対する感度が高い、つまり、シャトルの打ち出し速度のバラツキが大きくなりやすいということです。

ヒットポイントの違いでどれくらい速度が変わるかといったデータを持っていないため、定量的な判断はできませんが、速度ばらつき2.6%以内を目指す上では、大きな影響がありそうです。

どの打ち方でも、大きな動作をするほど、サーブのバラツキは大きくなりますので、腰を回したり、肘を動したり、不必要な動作はすべて排除すべきです。



 <結論>

シャトルの打ち出し速度と角度のバラツキは、打ち方やヒットポイントの違いに大きく依存します。

ラケットを直進させる打ち方で、スイートスポットを外して打つと、最もバラツキを抑えられると結論します。

ただし、この打ち方は、ロングサーブの打ちやすさや、スイングのコンパクトさが多少犠牲になります。

サーブの精度とデメリットのバランスを取るために、直進させる打ち方と横回転させる打ち方をブレンドするのも一つの方法です。

縦回転+直進、縦回転+横回転の打ち方は、ロングサーブをコンパクトに打てるメリットはあるものの、スイングの複雑さと上下方向の角度ずれのリスクがあります。

特に経験の浅い初中級の方には、難しい打ち方だと言えるでしょう。



<スイングのブレを抑えるためのアドバイス>

人によってしっくり来るサーブの打ち方は違うと思いますが、どんな打ち方にせよ、再現性が十分に高ければ問題ありません。

ちなみに、私はショートサーブを打つ時、ラケットを直進させる打ち方に、少し横回転をブレンドしています。

ショートサーブの方向を変えたり、ロングサーブを打ったりする時は、横回転を多めに加えます。

また、ショートサーブではスイートスポットを外し、ロングサーブではスイートスポットで打つことで、ショートとロングのスイング幅の差を小さくするようにしています。

ショートサーブはとてもメンタルの影響を受けやすいですが、科学的な根拠を持っておくと、不安にならず自信を持ってサーブを打つことができます。

なかなかサーブが安定しない方は、本研究を参考にサーブを見直してみて下さい。



<次回研究予告>

サーブの打点とスイング以外には、もうサーブの軌道をばらつかせるものはないのでしょうか?

実は、ラケットがシャトルにどう当たるかということも、サーブの軌道に影響します。

シャトルのどこを打つのか、どういう向きで打つのか、ヒットポイントを安定させるにはどうすればいいのか。

どうも、シャトルの持ち方や放し方が関係していそうです。

次回は、シャトルに注目して、「サーブ後」をコントロールする方法を考えます。

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