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- <ショートサービス研究室>サーブはどこまで浮いても大丈夫?
<2021/10/1公開>
【2021/10/5訂正】
本レポート公開当初、サーバーの打点の高さ(床からシャトルのコルクまでの距離)を1.1mとしていましたが、シャトルの長さが8〜9cmあるため、この条件ではシャトル全体を1.15m以下に収めなければならないというサービスルールに抵触します。
そのため、サーバーの打点の高さを1.1mから1.05mへ変更した上で再検証し、内容を修正させていただきました。(論理展開は変わっていませんが、ところどころ少し数値が変わっています。)
前回の研究で、プッシュされやすいかどうかには、サーバーの打点、レシーバーの反応時間、踏み込める距離が関係することがわかりました。
初中級の中でも、比較的反応時間が短く、踏み込める距離の長い選手まで含めると、プッシュされにくく、効果とリスクのバランスも良いのは、前から高い打点で打つサービスでした。
では、どれくらいまでなら、サーブが浮いても、下向きにプッシュされないのでしょう?
プッシュされにくく、ネットに掛けるミスもしづらいサーブの軌道とはどういうもので、サーブのバラツキはどの程度に収めないといけないのでしょうか?
<研究報告>
対戦相手が初中級の方の場合に、どこまでなら浮いてもプッシュされないのかを計算し、プッシュされるリスクとネットに掛けるリスクのバランスが、最も良くなる軌道を割り出します。
そこから、サーブの打ち出し速度や角度は、どれくらいのバラツキに抑えなければならないのかが見えてきます。
(1)下向きにプッシュできる打点は?
最初に、どれくらいの高さで取ると下向きにプッシュできるのか計算してみましょう。
ここでは、シャトル全体がネットより高い位置にあった場合に、下向きにプッシュできるものとします。
また、レシーバーの打点は、床からシャトルのコルク中心までの高さとします。
ネット中央部の高さが1.524m、シャトルの羽根の部分の直径は5.8cm以上6.8cm以下(半径にすると2.9〜3.4cm)とルールで決まっていますので、水平方向にプッシュできるレシーバーの打点を計算すると約1.56mになります。
つまり、打点が1.56mを越えると下向きにプッシュされる可能性があるということです。

ここから先は、下向きにプッシュされないレシーバーの打点の限界を1.56mとして話を進めます。
【前提条件1:ぎりぎり下向きにプッシュされない打点】
床からの高さ | 1.56m |
(2)ショートサービスが浮いてしまう理屈
ショートサービスが浮いてしまうということは、ネットを越えた直後の軌道が、本来の軌道よりも上側にずれるということです。
軌道がずれる物理的な原因は2つあります。
一つは、サービスを強く出してしまうこと、つまり、シャトルの打ち出し速度が速くなりすぎることです。
もう一つは、サービスを打ち上げてしまうこと、つまり、シャトルの打ち出し角度が大きくなりすぎることです。

(3)プッシュされないぎりぎりの軌道は?
では、どういう軌道になってしまうとプッシュされるのかを考えてみましょう。
前回の研究で、平均的な初中級男子の反応時間を0.6秒、踏み込める位置をネットから1mとしました。(女子ではそれぞれ0.7秒、1.5m)
今回は、大半の初中級選手にプッシュされないサーブを割り出すため、前提条件を厳し目に設定してみます。
また、女子の方でも、サービスをプッシュする意識の高い方は、男子と遜色ない位置取りや動きをされるため、前提条件は男女区別なく統一します。
【前提条件2:レシーバーの最短反応時間】
初中級の上位者 | 0.55秒 |
【前提条件3:レシーバーがシャトルを打てる位置】
ネットからの距離 | サーバー側サービスラインからの距離 | |
初中級の上位者 | 0.5m | 2.5m |
レシーバーは、この2つの条件を同時に満たせる位置でシャトルを打つことになりますので、次のどちらかになります。
・サーブを打ってから0.55秒以内に、シャトルがネットから0.5mのところを通過していなければ、ネットから0.5mの位置で打つことになります。
・サーブを打ってから0.55秒以内に、シャトルがネットから0.5mのところを通過していれば、0.55秒後にシャトルがある位置で打つことになります。
前回の研究から、動きの良い相手には、前から高い打点でサーブした方がプッシュされにくいことがわかっているので、サーバーの打点はサービスラインより20cm前、床から1.05mの高さとします。
【前提条件4:サーバーの打点】
・サービスラインより20cm前
・床から1.05mの高さ
前提条件1(ぎりぎり下向きにプッシュされない打点は1.56m)も含め、これら4つの前提条件を用いると、ぎりぎり下向きにプッシュされない軌道を割り出すことができます。
※空気抵抗の有無による結論への影響は十分に小さいため、以下の軌道計算では、空気抵抗はないものとしています。
先ほど、シャトルの打ち出し速度と打ち出し角度が変わることで、軌道がずれるというお話をしました。
打ち出し速度と角度の片方または両方が大きくなると、軌道は高い方へずれます。
これがサーブの浮く理屈です。
打ち出し速度と角度の片方または両方が小さくなると、軌道は低い方へずれます。
これがサーブをネットに掛ける理屈です。
【シャトルの打ち出し速度と打ち出し角度により生じる軌道と現象】
打ち出し速度 | 打ち出し角度 | 軌道 | 現象 |
大 | 大 | 高い | サーブが浮く |
小 | 小 | 低い | サーブをネットに掛ける |
打ち出し速度と角度は、サーブをするごとに少しずつばらつきます。
このばらつきに最も耐えられる、高すぎず低すぎずの軌道でサーブすると、厳しくプッシュされたりネットに掛けたりするリスク(失点リスク)を最も抑えられるはずです。
この最適な軌道を探すと、計算上は、このような打ち出し速度と角度になりました。
【失点リスクを最小にする軌道を作る条件】
打ち出し速度(時速) | 打ち出し角度(水平方向からの角度) |
約20km | 約39度 |
この時、ネットの上11cmのところを通し、相手サービスラインより16cm先に着地する軌道となります。
レシーバーの打点は、下向きにプッシュできる打点より約9cm下の1.47mになります。
【失点リスクが最小になる軌道】

この軌道でサーブすると、打ち出し速度と角度のバラツキが±2.6%まで耐えられます。
数値にするとこうなります。
打ち出し速度:±0.52km(時速)
打ち出し角度:±1.014度
打ち出し速度は、サーブを打つ強さで決まります。
打ち出し角度は、サーブを打つ時のラケット面の向きで決まります。
サーブを打つ時の感覚としては、2.6%までなら強めになっても弱めになっても大丈夫、ラケット面の向きは1度までならずれても大丈夫ということです。
打ち出し速度と角度がともに2.6%大きくなると、ぎりぎり下向きにプッシュされない軌道、つまり許される最も高い軌道になります。
【打ち出し速度と角度がともに2.6%大きくなった時の軌道】

1.56mというのは、ぎりぎり下向きにプッシュされない高さです。
打ち出し速度と角度がともに2.6%小さくなると、ぎりぎりネットに掛からずショートもしない軌道、つまり許される最も低い軌道になります。
【打ち出し速度と角度がともに2.6%小さくなった時の軌道】

ネットの3.6cm上というのは、コルクの中心の位置です。
シャトルの半径が2.9〜3.4cmなので、ネットすれすれを通ることになります。
<結論>
初中級のほとんどの対戦相手に対して通用するサーブの軌道を割り出すため、平均を上回るサーブへの最短反応時間:0.55秒、シャトルを捉えることのできる位置:ネットから50cmを想定して、軌道計算を行いました。
サービスラインより20cm前、床から1.05mの高さから、ネットの11cm上を通し、相手サービスラインの16cm先に着地するようにサーブすると、下向きにプッシュされる確率と、ネットに掛けるミスをする確率を同じにできる、つまり最も失点リスクを下げられると結論します。
さらに、打ち出し速度と角度のバラツキを2.6%以内に収めると、下向きにプッシュされることもなければ、ネットに掛けたりショートするミスをすることもないとわかりました。
この時、下向きにプッシュされないぎりぎりの軌道は、ネットの18cm上を通り、相手サービスラインの32cm先に着地する軌道になります。
ただし、プラス方向とマイナス方向のバラツキを同じ(正規分布)と仮定したこと、空気抵抗を無視したことの影響で、実際とは多少の差があると思われます。
※計算結果にはある程度の誤差が含まれます。
※研究成果、見解、アドバイス等は、すべての方の成功を保証するものではありません。
<自信を持ってサーブするためのアドバイス>
サーブは、ネットすれすれを通せるならその方が良いですが、いつでも狙った通りに打てるという人はいません。
レシーバーからのプレッシャー、試合展開、その日の調子の良し悪しなどから、メンタル面での影響を必ず受け、どんなに技術の高い方でも、毎回微妙に違うサービスになります。
サーブは必ずばらつくという前提に立つと、ネットすれすれを狙ってはいけないことがはっきりします。
狙った通りにいけば、シャトルを下から取らせることができるとしても、2回に1回ネットに掛けているようだと勝ち目はありません。
完璧を目指すよりも、厳しくプッシュされなければOK程度に割り切って、軌道に少し余裕を持たせることをおすすめします。
「レシーバーのタイミングさえ合わなければ、ネットから20cm近く浮いても厳しいプッシュはされない」と思えれば、ネットの11cm上を通すサーブは、かなり安心して打つことができます。
ネットの上11cmを狙うにしても、「11cm以内に収めなければいけない」と思うより、「11cm付近でOK」と思う方が、気持ちに余裕を持てるでしょう。
また普段の練習では、サーブのバラツキを抑えたり、レシーバーにタイミングを合わせられないよう、打ち方を改善する努力をしましょう。
ご自身のサーブのバラツキの程度が小さく、タイミングを外す技術も身につけていれば、さらに自信を持ってサーブを打つことができるでしょう。
<次回研究予告>
では、技術的にサーブのバラツキを抑えるにはどうしたらいいのでしょう?
いつでも全く同じようにサーブを打てるなら、シャトルの軌道も全く同じになるはずです。
固定カメラの前で、全く同じようにサーブを2回打ち、打つ前から打った後までの映像を重ねてみると、サーバー自身、ラケット、シャトル、この3つが二重に見えるでしょう。
この差が、サーブのバラツキを生んでいるはずです。
ひょっとすると、そのずれは、サーブを打つ前からもう始まっているかもしれません。
どうやら、バラツキを抑えるには、「再現性」にヒントがありそうです。
次回は、サービスの再現性を悪くする原因と対処法に迫ります。
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